財団について

刊行物

 当財団は、アマノ株式会社の創業者、故天野修一氏(1976年12月没、享年86歳)がその生前1961年、昭和36年に工業技術に関する研究開発、研究助成ならびに工業教育の奨励を目的として、私財の一部を投じて設立した試験研究法人です。

研究所は設立時横浜市にて事業活動を行ってきました。
当時の刊行物は、

(財)天野工業技術研究所 技術レポート
1962(昭和37)年1月~1964(昭和39)年1月   No.1号~No.25号

以降休刊、その後

1977(昭和52)年度より「年次報告」として復刊

1979(昭和54)年10月奥浜名湖畔の当地に移転し今日に至っています

2013発行 平成24年度年次報告 創立50周年より助成報告件数増加により、本書の体裁がB5版からA4版となる

2022発行 令和3年度年次報告

年次報告

  • 巻頭言

    巌真 廣

     今日,わが国の社会は,かつての高度成長時代から社会福祉を志向した安定成長時代へと大きく転換しつつあります。このような時代の変動にともなって,社会の需要もますます多岐多様となり,そして複雑になってきております。

     当研究所は,公益の試験研究法人として,当然のことながらこのような社会の新しい需要に応える,いやむしろ需要を先取りした研究事業活動を展開したいと念願いたしております。このためには,当研究所初代理事長の故天野修一氏による昭和36年創設時の理念の原点に立ち戻って再出発する必要性を痛感いたしております。

     研究活動事業の充実をはかるためには,申すまでもなく,すぐれた指導者のもとに有能な研究員を育成し確保すると共に,恵まれた環境でよく整備された研究実験の場をそれら研究者に提供することであると思います。

     幸いにして,かねてより研究所を建設する目的で購入済である静岡県引佐郡細江町所在の土地に研究所を建設することを本年3月の定時理事会ならびに評議員会にて承認されましたので,早速建設準備委員会を設置して計画を立案中であります。

     研究所が完成した暁には,当研究所自体の試験研究活動の内容充実に務めることは勿論でありますが,特に地域社会の一般企業に研究所の施設を広く開放すると共に,できうる限りその研究開発のお手助けができたらとも考えております。

     更に,昭和52年度より始めました研究助成ならびに奨学事業を拡大強化していきたいと思っております。

     しかしながら,一方で研究所の建設に着手しながら,他方で前に述べましたような事業活動を総花的に同時に推進していきますことは,財政基盤もさほど強固でない小規模な当研究所にとって,物理的に不可能なことであります。

     従いまして,今後とも健全な財務体質を堅持しながら,急がず,焦らず,背伸びせず,重点的に事業計画を押し進めて,小型ながらもぴりっと辛い小廻りのきくユニークな研究所に育て上げて行きたいと念じております。広く関係各位のご支援をお願いする次第であります。

  • 天野工業技術研究所のおいたち

    沼田誠司

     天野工業技術研究所は前理事長でありアマノ株式会社の社長であられた故天野修一氏の寄付を基として昭和35年設立されたものであります。

     因みに天野修一氏は明治23年三重県に生まれ,津中学校を経て大阪高等工業学校機械科を卒業後,海軍技師となり主として艦船の建造や揺籃期の航空機の開発に従事されました。大正14年海軍を退官されました後,鉄道省・商工省の委員(車輛の改善やJESの制定)山梨高等工業学校の講師を勤め,昭和6年,自ら発明考案されましたタイム・レコーダーの製造を目的として,現アマノ株式会社を創立されました。傍ら気象計器類の製造を行い,続いて海軍の要請により航空魚雷の開発や投下訓練に用いる雷道計の製造を行ない,同社は昭和19年には資本金560万円,従業員1200名を容する迄に発展いたしました。終戦と同時に一時会社を閉鎖,昭和20年11月従業員10余名をもって,タイム・レコーダーの製造を再開,同26年に集塵機を加えました。タイム・レコーダーは,戦後の経営管理システムの変化に,集塵機は公害思想の進展に伴い需要が急増しアマノ株式会社は資本金25億円余,従業員1000名,年商100億円の企業に再び発展をいたしました。

     天野修一氏がタイム・を開発以来,同品の輸入は完全に防遏され,現在は日本のタイム・レコーダーの生産量は世界の25%を占め,日本に於けるタイム・レコーダーの普及率は世界最高となって居ります。昭和34年,天野修一氏はこのタイム・レコーダーの発明と普及の功により紫綬褒賞を受けられました。

     天野氏は,この栄誉とこの事業により得た財を自分独りのものではないとされ,受賞式には従業員代表を伴われたりされましたが,この受賞を記念して何等かの形で財を社会に還元したいとお考えになりました。自らが今日に至ったのは工業技術の開発により,日本が今日に至ったのもまたそれによる。現在,日本に於いて,基礎的研究は国が行ない営利に結びつくものには大企業の資本が投ぜられている。営利には結びつかないが社会に必要なことで開発さるべきものは多い。また自らが二度にわたり小人員から発展し得た経験から,中小企業の技術開発は重要である。このようなこと種々考慮され,工業技術開発の研究と助成をもって社会に報いようとお考えになり,財団法人の設立となったものであります。

     所長には東大名誉教授の富塚博士を迎え,研究項目としては,公害防止・社会福祉に関するものが取上げられました。雪害防止(雪の圧力計),大気汚染の防止(エンジンの熱焼の研究),火災予防,身障者の用いる機器類の開発などであります。なお,当時アマノ株式会社には,高校卒業者に対してより高度の教育をするための技術養成所があり,大学教授・講師等を迎えて授業が行なわれておりましたが,この運営を天野工業技術研究所に移管し,より広く社会に貢献することも計画されました。天野工業技術研究所としては,活撥な研究を進め,部門も機械・電気・化学・社会科学等にわけ,研究所施設を建築すべく,静岡県細江町に約6000坪の用地を求めるに至りましたが,途次,内部の問題から一時研究を中断,その後再開して今日に至って居ります。

     その間,活動は余り活撥でありませんでしたが,アマノ株式会社が財団の研究資金を助成,また天野修一氏夫人の令弟杉山玉夫氏よりの遺産の御寄付等も加わり,今日の資産状況となりました。今日ではかなりの研究資金もありますし,また今回天野氏御遺族より多額の御寄付もありましたので,今後財団法人としてより社会に貢献すべく,寄付行為の一部を改め,評議員各位をお迎え致しましたものであります。

     天野修一氏ならびに寄付者各位の御意志を社会に顕彰するよう,御協力をお願い致します。

    (52.7.11 評議員会席上談話)

  • 編集後記

     昭和52年度年次報告をお送りします。実は,以前には「技術レポート」という月間パンフレットによって研究成果を公開していましたが,昭和39年1月第25号を最後に永らく休刊を余儀なくされていました。この年次報告は復刊第1号にあたります。内容には至らない点が多々あることと思いますが,研究の充実とあいまって,逐年,改善に努力を重ねる所存です。関係各位のご支援を切にお願いする次第です。

     表紙には古木樹皮を,また本文中の随所に繁茂する樹木写真を配しました。感慨には人さまざまながら,「研究」の諸相が巧まずして示されたものと観ていただければ幸甚です。

    理事
    天野  杲
    粟野 誠一
    巌真  廣
    杉山 正敏
    大道寺 達
    古川 精一
    監事
    板井 一瓏
    田村  正
    評議員
    伊藤  堅
    影山 静夫
    加藤 亮三
    狩野  武
    源間 一郎
    桜井 好和
    菅原  正
    高瀬 高夫
    高橋 信夫
    沼田 誠司
    松永  晃
    山本  功

    発行所 財団法人天野工業技術研究所
    横浜市港北区大豆戸町275
    TEL(045)401-1441

    印刷所 笹氣出版印刷株式会社
    仙台市上杉一丁目14-11
    TEL(0222)25-5521(代)

  • 目次

    研究

    高出力化が可能な熱電変換の研究(共同研究、継続)

    助成

    減圧媒体粒子流動層による微粒子懸濁物質の低温度・高速度乾燥法

    ユビキタス酸化物太陽電池の溶液化学的構築

    小型風車のためのスラット付翼による風力特性の改善と翼周り流れの研究

    骨粗鬆症治療効果を有するジアリールエーテル含有化合物の創製

    無溶媒噴霧塗装法の開発

    硫化カリウム処理による銀薄膜の発色機構の解明と画像形成材料としての応用

    超小型マイクロスーパーキャパシタの開発

    SiC半導体不純物の非接触的評価法

    次世代半導体表面の原子レベルでの平坦化に向けたカーボン系酸素還元触媒の開発

    単結晶ダイヤモンドを用いたナノメートル標準試料の開発

    環境低負荷な新規溶融静電紡糸法によるナノファイバーの創製

    フッ化テトラブチルアンモニウムを塩基として用いたカルボン酸とハロゲン化アルキルハライドによるエスエル合成

    奨学

    非定常雑音に対する高速雑音推定

    ナップ邸設計から見る米国建築家クラムの日本建築に対する認識について一設計案の平面図における寸法計画の分析を中心にしてー

    豊橋市における電気自動車導入による都市の変化

    曖昧な問い合わせの解決におけるマルチソース・スキーム

    ゾウリムシの有性生殖開始機構における新規タンパク質Pc-MSPの機能解析

    アユ消化管の構造と機能の部位間比較

    運営

    平成24年度事業報告

    貸借対照表

    研究開発品一覧

    写真説明

  • 編集後記

     新公益法人認定法が平成20年12月1日に施行されて以来、新公益法人への移行をめざし種々の努力を行い、平成25年3月21日付で移行認定され、4月1日付で公益財団法人としての登記を行い、新しくスタートしました。移行手続の過程で、ご協力をいただいた皆様に感謝申し上げますとともに、ご期待に添うよう努力して参る所存です。

     移行申請準備に要した4年の間には、長年にわたり財団運営にご尽力いただきました天野 杲先生、影山静夫先生の逝去、東日本大震災、設立50周年事業としての新研究・事務所棟の新築等々があり、多忙な日々を送りましたが、貴重な経験であたっと振り返りながら、平成24年度年次報告の編集を行っています。

     なお、報告書件数の増加のため、本書の体裁を変更いたしました。ご意見、ご提案がございましたら、事務局までお知らせください。

    理事
    天野 仙太
    川幡 長勝
    鏑木  實(常勤)
    小林 純一
    橋本  彰
    本多 波雄

    監事
    野口 惣一
    山本 満彦
    評議員
    入江 寿弘
    小山内州一
    小林 俊郎
    小山  稔
    志村 史夫
    庄司 秀夫
    須藤 雅夫
    疋田 知士
    平井 重臣
    (平成25年4月1日現在)
  • 目次

    巻頭言

    助成

    原子層物質を活用したエネルギー変換微細デバイスの研究

    メカノケミカル法により作製したNi担持CaO触媒上におけるCO2メタン化

    キャッチ&リリースによる新規ペプチド精製法の開発

    強誘電性π共役液晶に対する架橋構造の導入による光起電力特性の向上

    視覚運動学習に基づく人型コミュニケーションロボットの姿勢制御

    超高速磁気ギャードSRモータの開発

    計算化学と材料合成の融合によるアミン含有C02分離膜の高性能化

    溶融混合による非相溶アクリル/エチレンビニルアルコール共重合体ブレンドの透明化と強靱化技術の確立

    フローリアクター開発を目指した気液スラグ流の流動制御

    地震先行電離圏変動現象を解明することを目指すことに特化した超小型衛星の開発

    壁面点検工事支援ロボットの開発

    奨学

    令和3年度奨学生名簿

    静止立位姿勢の安定性評価のためのモデリングと解析

    Virtual Whiskers:頬への触覚刺激によるVR環境での空間方向情報の提示

    A Study of Effects of Donor-Acceptor Interaction in Silicon Nanoscale Co-Doped Devices

    Synthesis and characterization of graphene composites and their flexible device applications

    アモルファス金属材料のナノ構造による物性発現メカニズムの解明を目的とする実験家にも利用可能な高度に自動化された計算プログラムの開発

    Self-Powered Wireless Sensing System Driven By Daily Ambient Temperature Energy Harvesting

    Ni基水素吸蔵合金を利用した水素付加触媒の開発

    Metallization of Carbon Fiber Reinforced Plastics by Cold Spray Technique

    A Study on Characteristics and Planning Issues of Street Vending Function in Developing Country

    Improving Buckling Behavior of Steel Members using Unbonded Carbon Fiber Reinforced Polymer (CFRP) Laminates

    A Study on Informal Settlements Upgrading Approach with Viewpoint of Sustainable Community in Developing Country

    Ontology-based Knowledge Management System with Verbal Interaction and Concept Learning for Home Service Robots

    Effect of thermal comfort on sleep quality and next-day performance in summer and winter

    GSNのパターン分類によるセーフティケース記述に関する研究

    街路空間における中間領域の類型と評価に関する研究

    漂砂と飛砂の連続性を考慮した海浜変形予測モデルの構築

    衝撃弾性波を用いた応答波形の時系列変化量である差分値を指標としたコンクリート構造物の内部欠陥評価

    運営

    令和3年度事業報告

    貸借対照表

    研究開発品一覧

    写真説明

技術レポート

(財) 天野工発接術研究所 技術レポート

昭和37年1月~昭和39年1月(以下休刊,昭和52年「年次報告」として復刊)

発行年月 研究レポート 天研随想 その他
No.1 37年1月 熱冷一万回テスト第一回   奇稿 発刊を祝う
No.2 37年2月 雪の工学的研究(I) 雪とは何か?そのきちんとした測定を 文献紹介 大気汚染問題はこれで解決か?
紹介 長岡積雪科学館
No.3 37年3月 雪の工学的研究(II) オートバイの雪上走行の安全化 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(I)
紹介 塩沢雪実験所
No.4 37年4月 2サイクルエンジンの煙 エンジン屋の罪ほろぼし 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(II)
No.5 37年5月 二輪車舵角計 二輪車の安定性の研究の経緯 文献紹介 有毒排気の解消に新対策(I)
No.6 37年6月 太陽温水器に関する一考察 太陽エネルギーの巨大さその利用 文献紹介 有毒排気の解消に新対策(II)
公害の現状とその対策その対策
No.7 37年7月 純機械的除湿法 多湿地獄よりの離脱 生活科学 精神障害と生活環境
No.8 37年8月 新型摩擦動力計(第一報) 研究考察に於ける成功と失敗 生活科学 交通問題の現状と対策
No.9 37年9月 空気駆動ポンプ(第一報) 台風の制御 生活科学 都市と公園
文献紹介 ガスクロマトグラフによる自動車排気ガス分析
No.10 37年10月 新型摩擦動力計(第一報)
空冷2サイクルガソリンエンジンに於けるシリンダ温度分布とその変形
科学技術の一騎打ち時代は去る 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(III)
No.11 37年11月 クランクピン・ローラー・ベアリング研究の小手調べ! 最近の著名火災の教訓 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(IV)
No.12 37年12月 冷熱繰り返し試験機 都心部から自動車を追放 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(V)
No.13 38年1月 市街地の自動車燃料消費 雪,この未解決なる物 文献紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(VI)
No.14 38年2月 研究失敗記録(第1集) ロータリー・エンジン是非論にからんで思うこと 紹介 雪上車
No.15 38年3月 雪の工学的研究(III) 集中豪雪雑感  
No.16 38年4月 新型摩擦動力計(第三報) 動力測定を万人のものに 雑感 除雪機械展示会
豪雪見ざるの記
No.17 38年5月 新型摩擦動力計(第四報) 輝かしい5月の日の思い出  
No.18 38年6月 プラスチクスフィルム耐候試験(第1報) 粘度計を日常生活のものに持ち来す企て 紹介 Michellの粘度計
No.19 38年7月 2サイクル模型実験による掃気作用の研究 太陽熱温水器 せめてテレビなみの普及を  
No.20 38年8月 空気駆動ポンプ(第二報) 失敗記録の扱い方 紹介 大気汚染防止対策研究文献紹介(VII)
No.21 38年9月 天研式簡易温水器 安全教育のABC  
No.22 38年10月 研究失敗記録(第2集) 失敗記録余話 寄稿 P.B.レポートと家宝
No.23 38年11月 空冷2サイクルエンジンの熱変形 油を売ること  
No.24 38年12月 新しい「現場用」粘度計 粘度計開発のいきさつ 寄稿 P.B.レポートと家宝
No.25 39年1月 2輪車の安定性の研究 機械文明の末路をうらなう  
  • 発刊を祝う

    工業技術院

    院長 藤崎辰夫

     本年は,わが国経済発展にとって,決して平坦な年でないと思われますが,私共は,ここに心機一転してあらゆる困難を克服する堅い決意が必要であります。

     鉱工業の原材料を輸入に俟つわが国は,輸出を盛んにして,国際収支の均衡を図らねば,高い経済成長率も,所得の倍増も望めません。

     昨年度の41億ドル台の輸出を大巾に伸ばさねばなりませんが,そこで色々輸出振興策が論じられているわけであります。しかしながら,輸出振興対策の中では,すぐれた生産技術が最も重要であることは申すまでもありません。逆説的ではありますが,仮りに拙劣な生産技術であったら,いかに税制上の,または,金融上の助成策を講じても輸出を伸ばしうる目途はありません。かように考えますと,科学技術の振興は決して迂遠な明白の対策でなくて,実は,わが国が当面している幾つかの重要問題のうち最も切実な施策であることは自明でありましよう。

     こゝ数年来,科学技術の振興が叫ばれてきましたことは,まことにご同慶にたえないと思いますし,直接この方面に関係する私共は,まことに心強く感じております。

     しかしながら,その実体をよくよく見ますと,決して安心できる状態でなく,今なお,お題目の域を脱していないといっても過言でないと思われます。まだまだ,地についた科学技術の振興というには程遠いのであります。

     これには,色々な理由があります。直接この問題に関与している私共が,無力である点は深く反省し,今後とも最善の努力を続けて行かねばなりませんが,またわが国の政治が,科学技術の振興に真剣でなければならぬと同時に,広く国民各位の認識と深い関心が必要であることを指摘しないではいられません。

     ご承知のとおり,わが国の生産技術は,ここ数年長足の進歩を遂げました。よく技術革新と呼ばれており,わが国の経済生長率の高いことは,世界の驚異となりました。この技術革新は,主として外国技術の導入によって達成されたことも,すでにご承知の通りでありますが,一流の国家に成長するためには,技術導入だけでなく,技術の交流の段階に発展しなければなりません。すなわち,わが国でも新しい技術を創造して,これを,国外に輸出する必要があります。そうでなければ,単に安易な技術の導入だけでは,高度成長を持続することは困難となりましよう。

     このたび,財団法人天野工業技術研究所が所報を発刊し,研究成果を広く伝えられることは,誠に時宜を得たものと存ずる次第であります。

     今日の発刊の運びになるに至るまでの御努力に対し,敬意を表するとともに,その発展を願ってやみません。

  • 理事長 天野修一

     40過ぎで,而かも役人上がりの私が,偶々時刻記録機の特許を得た。そして,これを作り市販した。コツコツやっている間に,70になった。大した金でもないが,知らぬ間に蓄った。子供たちも一人前に生活できるようになった。老妻と二人では,蓄った金は使い切れない。さりとて,贅沢もできない。また,これをドブに捨てることもできない。今まで,慈善団体,学校,町内等に寄附しても,また,学生に学資を出しても,その時限りであった。

     何か良い使い途はないだろうかと,ひそかに考えていた。ところが,34年暮に。私が発明したタイムレコーダーに関して紫綬褒賞をもらった,私はコレだ,工業技術の開発に使ったら,僅かな金でも生きると気がついた。そこで,天野特殊機械の尾園技術部長に,誰かよい使い手はないかと相談したら,富塚博士が候補に上り,同氏も所長になることを快諾せられた。

     富塚さんは,昔々,私が海軍航空技術研究所に在勤の時に,大学,陸軍,海軍合同の研究会が毎週一回あったが,その時分の青年学者で,私も同氏のことは多少知っている。学者で,且つ実際的技術を兼備した尊敬すべき研究家である。私はこよなく嬉しい。

     財団法人の研究所の出願を神奈川県庁に出したところ,通産省に廻わされた。なかなか許可が出ないから説明に行ったところ,私が遺産相続の抜道として,これを出願したのだろうとの誤解があった様子で,また,工業関係では例がないという話をきいてア然とした。わが国力の弱さの原因が釈明された気がした。

     この一粒の”けし”の種が,お国のためになるならば,私は,思わざる重ね重ねの幸運をつかんだことになる。

    所長 富塚 清

     天野工業技術研究所が,正式に発足してから,まだ一年足らず。人員も設備も,充分とは申せませず,ほんとうのところは建設的段階でありますが,手をつけた調査や研究で,ささやかながら,公表していゝと思われるものが生れました。そこで,この1962年度の初頭から,「技術レポート」という小冊子を刊行,これに載せて皆様のお目にかけることに致しました。とりあえず,4頁とし,1,2頁は,試験研究成果の予報乃至速報,3,4頁には,本研究所の研究に関係ある,文献抄録紹介と言うことにし,一応,月刊をたてまえとして出発することになりました。

     内容は,天野工業技術研究所の事業内容にうたわれている通り,公害関係の調査研究ということが主になります。これらの中で,既に,多少の成果をあげているのは,
     a)積雪関係(雪試験機の数種,車輛安定試験1機種を完成。この冬は,スノー・タイヤの性能試験の際,これを適用出来る段階に達しました。)
     b)都市空気汚染問題(スモーク・メーターを1種完成。2サイクル・エンジンのスモーク軽減策を考究中。)
     c)火災関係(火災報知機の普及型ほぼ完成。エアー・タービンによる高吸上装置及び破壊器具の実現,目下消防研究所の委嘱により製作中。)

     尚,これと併せて,生活科学関係の研究も行っています。これと,公害関係のそれとは,問題の性質が大体共通ですので,目下とりあげており,生活科学化協会の委託もあって,進行中です。

     こうした関係のものが,レポートの内容となります。ご愛読していただければ幸いです。

    役員の略歴

    理事長  天野修一

    明治43年7月
    大阪高等工業学校機械科卒業
    大正8年〜10年
    コロンビア大学及びソルボンス大学留学
    大正9年8月
    海軍技師
    昭和6年11月
    天野製作所設立
    昭和26年8月
    国際科学的経営会議(CIOS)日本代表及び実行委員
    昭和31年10月
    天野特殊機械株式会社社長
    昭和33年11月
    紫綬褒章を受賞
    昭和36年1月
    横浜市文化賞を受賞

    理事(所長)  富塚 清

    大正6年7月
    東京帝国大学工科大学機械工学科卒業
    大正7年11月
    東京帝国大学工科大学助教授 東大附属航空研究所兼務
    昭和7年5月
    工学博士 東京帝国大学教授 兼任 機械験所技師
    昭和24年1月
    国家消防庁技官
    昭和27年6月
    東京大学名誉教授
    昭和28年10月
    明治大学教授 工学部大学院勤務
  • 研究課題

    研究課題とその進行状況

     当所で研究中の小さい課題は,常に多数持っていますが,現在(12月中旬)行っている主要なものにつき列記しますと,次のとおりになります。

    1. 2サイクルエンジン排気濃度の研究。
      光学的に煙濃度を測定し,燃料〜潤滑油混合比,エンジン回転数,回転数の変化等と,煙濃度との関係を研究中。
    2. 空気駆動揚水ポンプ試作
      空気タービンを動力とする遠心ポンプ。このポンプは,自治省消防研究所より受注し,現在製作中。完成予定2月末。
    3. 材料冷熱試験機試作
      主に,非金属材料を,熱湯と冷水とに交互に投入する材料耐久試験機。
      バラックセット一台完成。現在,本格的試験機の第一号を試作中。完成予定1月中旬。
    4. 熱例試験
      上記試験機によるテスト。一群の試片に対し,一万回テスト終了。第2群に対する一万回テスト進行中。
    5. 雪質試験機試作
      積雪上の交通機関の設計に役立つべき試験機。試作完了。このシーズン中に,数回実用試験に出向く予定。
    6. 報知機試作
      火災報知器と巡回時計と非常警報機とを兼ねて,簡易で,確実な装置。原理的には完成。試作,改良中。
  • 研究レポート

    熱冷一万回テスト第一回

    まえがき

     新材料を構造用機として用いる場合に,その耐久性に不安があっては困る。最近急速に発達したプラスチクスについて,特にこの感が強い。このテスト法は,種々あり得るが,今回,熱湯と冷水とに試片を交互に投入する試験機を試作した。試験機については,第1号の経験を生かして,本格的な第2号製作中であるので,後日報告することとし,本号では,試作機による一万回テストの結果を,簡単に記すこととする。

    本論

     第一回のテストの主目的は,約80℃の熱湯と約20℃の冷水とに交互に投入(1サイクル約40秒)の,一万回テストが各種の材料に対し,どの程度のきびしさを現わすかを確めるにあった。従って試片は,金属,プラスチクス,その他種類を多くした。また,同じ試片を熱湯に浸し続けるテストも行った。時間は,200時間である。

    ◎第一群 金属

     ㋑アルミニウム ㋺亜鉛鍍鉄板 ㋩チタン亜鉛鍍鉄板 ㋥アルミ鍍鉄板

     変形は認められず,㋺の発錆は,熱冷の方が浸漬より多い。この結果は,予想どおりである。㋩が㋺と大差のない発錆を示したのは,意外であった。

    ◎第二群 プラスチクス

     ㋭ガラス繊維入りポリエステル板 ㋬同上波板 ㋣硬質塩ビ板 ㋠硬質ポリエチレン板 ㋷金網入り硬質塩ビ波板

     ㋣は熱湯中で軟化した。このテストは,全然無理だったわけである。(リ)も変形が甚大であったのは意外。金網が塩ビ中に埋没しているのみで,相互の附着力が無いことが,補強の実を減じたように思える。㋭㋬が,変形こそなかったが,変色,失透がひどかったのは,予想に反した。表面の平滑さも失われた。プラスチクスが溶けるらしい。㋠のみ変化なし。

    ◎第三群 その他

     ㋦ポリエステル化粧合板

     変化なし。意外の好成績であった。

    結語

    1. 熱冷一万回は,非金属材料には相当きびしいテストである。
    2. 現在店頭にある安価なプラスチクスは,耐えられないものが多い。
    3. 化粧合板には,充分な信頼性を示すものがある。

     但し,その後のテストによると,ガラス強化ポリエステルにも信頼性の高いものもあり,化粧合板にも全然弱いものもある。今のところは,「新しい材料を採用する場合には,まず熱冷テストを行うべきでしょう」というのが結論になりそうである。もちろん,用途によりましょうが。

    開所披露会

     昭和36年4月1日当所は開設されたが,開設に当り,東京,神田,学士会館に於いて,その開所披露会を行った。当日は藤山愛一郎氏はじめ,朝野の名士約300名が出席,祝福された。(写真)

  • 研究レポート

    雪の工学的研究

    1)雪の硬さ

     雪は降って来る雪片の状態でも種類が多い。気温が低ければ,サラサラした粉雪,高ければ,雪片が多数結合したぼたん雪。気象条件によっては,特殊な雪も降る。地上で積雪となると,大気,日光,圧縮,地温等の影響で変化を続ける。一般的に,雪片の細かい葉状構造等がなくなり,粒は大きくなって,ザラメ雪となる。水を含むこともしばしばある。見かけの比重は,100分の幾つ位から,1近くまでの範囲がある。積雪の深さは,0から数mにもわたる。

     この積雪を測定する方法もいろいろあるが,積雪の硬さ,又は強さともいうべきものを測ることが多い。実際には,円板又は円錐を雪面に圧入するか,投下するものが大部分である。圧入型は,その過程を読み取り得る利点を有し,投下型は,装置の簡易さを長所とする。積雪上の移動は不便であるから,装置の簡易さは重視される。

     どの型式を用いても,積雪は相当の変形を受けるし,雪の深さは有限で,時には薄く,厚いときにも層状構造を有するのが常であるから,表面から圧して測定した結果は,理学的には「何を測っているのかわからない」が,工学的には大切なデータである。

     当研究所の雪試験機は,富塚所長が,消防研究所在職中に考案したものの発展である。旧型は二つあり,一方は自記型で,第1図にその機構を記した。これにより第2図,第3図の如き曲線を得ている。装置全体はソリに取付けてあるが,野外各所での測定よりは,一カ所の雪質の時間的変化の追跡に威力を示す。

     もう一つは,第4図の如きもので,一種のバネ秤である。雪の硬さに応じて先端に径10cmの円板,又は頂角90°の円錐を付け,積雪中に圧入してその力を測り,別の物指で圧入の深さをみる。円板をつけたときは,先の自記型と同じ測定をすることになる。

     踏み固められた雪などは,円板では測定不能で,円錐が用いられる。この場合に雪の硬さの指数としては,一定荷重で生じた,くぼみの直径を用いるのがよさそうである。

     日本の積雪地には,世界的な深雪地方が相当ある。以前この地方は,冬期間の道路交通が実際上全然止っていたが,今日では種々の除雪車が活動しており,主要道路は自動車が走れる。この場合は,雪の荷重負担能力よりは,加減速時やカーブにおける滑りが,主に見るべき性質となる。これに伴い,試験機を今度改良したが,それについては,次項を見られたい。

  • 2)新型雪試験機

     前項のように,従来の雪試験機は,雪の耐圧力を測定するものであった。しかし,車輛の雪上走行の困難さは,路面の耐圧力の小さいことにあるのではなく,路面の『たよりなさ』,即ちタイヤのグラウンド・グリップが不確実な点にある。タイヤ・チェン,或いはスノータイヤ等は,このグラウンド・グリップの確保を目的としたものである。雪の摩擦力及び剪断力の測定が必要となる訳である。本試験機の特長もここにある。

     概略図を左図に示す。中心軸の下端に取付けたアタッチメントに加えられた圧力及び捩りトルクを,二本の蔓巻バネで受けて,その変形をダイヤルゲーヂ及びトルク指針で読みとるものである。下方のバネは玉軸受で支えられているので,捩りトルクは受けない。従って,圧縮バネ常数と捩りバネ常数とを独立に設定出来る。要するに,圧力計とトルク計とを一つにまとめたものである。使用法は,試験機に適当なアタッチメントをつけて,雪積路面に圧しつけ,圧縮荷重をダイヤルゲーヂで読みながら,アタッチメントが滑るまで捩る。トルク指針には,置き針がついているので,滑りはじめた瞬間のトルクが判り,静摩擦力が測定される訳である。アタッチメント(3)は摩擦力用で,アタッチメント(4)を使えば,剪断力が測定できる。勿論(1)及び(2)のようなアタッチメントを取付ければ,従来の試験機と同様な耐圧力の測定もできる。

     1月中旬,蓼科で本試験機の検定試験を行なった。測定値のバラッキは,自動車のワダチ跡のような不整な所でも,10%以内であって実用に耐える。尚,同じワダチ跡でも一見同じように見えても,表面がツルツルの場合とサラサラの場合とでは,ゴムとの摩擦係数が,0.15〜0.5程度に開いて居り,今さらながら雪の複雑さを思わせた。本試験に続き,今冬中に2〜3回雪試験を行う予定なので,詳しくは,あらためて報告する。

     本試験機は,主として車輛の雪上走行における性能改善を目指して製作されたものであるが,広く雪害という見地よりみれば,雪崩など大きな研究課題であろう。雪崩の本質は複雑かもしれぬが,耐圧力,摩擦力,剪断力と何らかの関係がない筈はない。大学登山部あたりと協力して,この問題に取組むことを検討中である。なお,雪害とは直接の関係はないが,スキー・ワックスの比較研究なども立案中である。

     積雪の問題は,意外に複雑である。研究の進展につれ,次々と試験機の改良を意図しているが,当面,動摩擦力も測定できるものの製作を企画している。雪害問題が一歩でも前進すれば幸である。

  • 文献紹介

    大気汚染問題はこれで解決か?

     米国保健厚生文部長官,エブラハム・エー・リビコッフ氏は,次のように言っている。「今から少なくとも二年以内に,デトロイト地方向けの新しい自動車は全部といっていいくらい,排気処理装置がとりつけられるようになる。この装置は,自動車の排気ガスの空気中に放散される際の未燃焼ガスを,三分の一に減らすことができるものである。」

     「もし,自動車のメーカーが,この装置をとりつけることによって大気汚染防止対策の手段をこうじないことになれば,法律によってでも,この対策として,上記のような装置を各自動車にとりつけるよう,国会に要請するつもりである」と,リビコッフ氏は警告している。

     従って,早ければ1963年頃(1964年型の自動車が出る時期)までには,この対策の成果がでるだろうと期待されている。また,工業方面においても,この問題を積極的に進めるならば,もっと早く結果がでるに違いない。

     現在,カリフォルニヤ地方で新たに配車される自動車は全部,もう既にリビコッフ氏のこの勧告に従っている。しかし,これはカリフォルニヤ地方だけのことで,他の地方はまだ実現されていない。ところで,この装置は新しく自動車を購入する人達に,どのくらい費用の負担がかかるのだろうか?おそらく約5ドル弱であろう。

     現在,エンジン技術が非常に進歩しているにもかかわらず,ガソリンエンジンについては,まだまだ,開発の余地があり,この装置の内容は次のようなものである。燃料としてその保有エネルギーを利用されている場合の石油ランプは,燃焼の際に炭化水素の未燃焼部分が残るた めに,芯の焔が黄色になっているが,ガソリンエンジンの場合のシリンダーヘッドも,同様に炭化水素がかなり残されてしまう。この時に,エネルギーの四分の一だけがわずかに点火燃焼で消費されることが実際にわかった。また,燃焼しない部分は,排気管の外に出るものと,クランクケースの中に入るものと二通りになる。

     現在のところでは,排気管からでる排気について,処置として見るべきものがほとんどないが,クランクケース中の未燃焼炭化水素(この炭化水素は,ピストンを経由し,吹き抜けによってクランクケースに入る)については,ある程度,防止することが可能になった。

     クランクケースは,汚れたガスを空気中に排気するための呼吸器管をもっているが,クランクケースのガスをうまく処理する最も簡単な方法としては,排気ガスを排気管とは別通路を経由して,シリンダー中にもどるように配管することがある。これは,石油ランプの未燃焼ガスが燃料容器にもどされる装置とよく似ている。

    以上が大気汚染防止対策の一装置としてつくられたものの大要であり,スモッグに悩まされたカリフォルニヤ地方において,各自動車にとりつけられた装置である。最も一般的な装置は,ゼネラルモーター社で製作されているものである。

     一方,排気管からの排気処理に対しても,なおざりにされているわけでなく,M.R.Grace&Coでは,もう既に2年以上も研究を続け,マフラー内に入れる触媒剤を製造している。この触媒剤は,多量の有毒ガスを無害ならしめると言われている。(Popular Science 10月号 1961)

    こつこつ研究を続ける積雪科学館

    紹介

     新潟県長岡市にある積雪科学館(財団法人積雪研究会経営)の盛田英治館長(62)ら5人の館員は――「雪はやっかいな存在です。しかし。使い方次第でずいぶんと役に立たぬでもありません」――と,この〃積雪を役立たせる〃ための研究に黙々と取り組んでいる。

     この科学館は,去る昭和23年初冬に設立されて以来十余年,北越製紙から年間膨大な研究費をうけ,初代館長勝谷稔氏が世界的な注目をあびた「積雪研究」を刊行,5号まで数えたが,現在は年間わずか180万円の予算となり,館員の努力と忍耐でほそぼそとその命脈を保っている。

     積雪の科学などというと,いかにもむずかしく聞こえるが,要するに衣類,履物,住居,食糧などに関する雪国の庶民の生活改善である。

     このほか最近は,雪の中に多分の放射能が含まれている。この放射能は〃積雪の科学〃の最も大切なテーマになっているといわれている。

  • 天研随想

    雪とは何か? それのきちんとした測定を

    所長 富塚 清

     日本各地の緯度をヨーロッパにくらべて見ると,ナポリが41°度でほぼ青森なみ。ローマは,約42°度で函館なみ。ミラノは,45°度余でほぼ稚内なみ。だからこの意味では,れっきとした南国で通る。しかし,冬になるとこれらの地方では,何メートルの積雪,零下20〜30°度なんていう寒さ。真冬でも椰子が青々と茂るナポリなどとは,天地の違いがあるっきとした北国である。

     そのため,雪とか,低温とかにからんでの研究はなかなか進んでいる。例えば北大低温研究所でやっていた雪の結晶の研究,その他の如き。又,雪関係の博物館の如きもいくつかある。(例,新潟県,長岡)

     だが,こうした雪の物理学的,或いは地方誌的研究の面から離れて一歩,雪の実用面のこととなると,研究はばったり稀薄であり,殆んど無に近い。早い話,新聞のスキー場便りの欄を見ても,書いてあるのは雪の深さと,スキーに対する可否のみ。滑る上において非常に大切であるところの,雪の乾湿,耐圧性,滑りかげん等については,何の記述もないのを例とする。これでは,スキー場に行って滑り出すまでは,全然見当がつかない。スポーツとすれば,それくらいの僥倖性のあることがおもしろいのだという理屈もあるか?

     しかし,もっと責任の重いもの,たとえばそりつき飛行機とか,雪上車とか,消防車とかを動かすというような場合に,これでは重大な手ちがいに陥いることがあるだろう。

     何とか積雪につき,もっときちんとした科学的表現というものはたてられぬものか? もっとも,「雪と申しても広うございまして」という理屈もあるにはある。しかし,広いなら広いなりに,これこれだけの広さということを,きちっと技術的に表現出来ねばこまるだろう。

     なお,近頃は,車輛につきチェーンだの,スノー・タイヤだのの研究が大分進んで来た。しかし,そうなると,このチェーンは,こういう雪の場合にはこの位利くが,こういう雪の場合にはだめ……などということを示す必要がある。その,こういうということの手がかりとして,一応間に合うであろうと考えられるスノー・テスターが,今度漸く私達の研究所でまとまった。これは,約10年前に雪上車用を目ざして工夫した二種のテスターから出発し,それを万能的にしたもので,耐圧性のみならず,摩擦係数,剪断強度等も計れるようになっている。こういうものを積雪地であまねく使用され,積雪の技術資料が豊富になることは切望の至りである。これが備われば,雪上交通機関の設計がやり易くなり,また,雪害の軽減にも役立つのではあるまいか?

    一月の研究所

    5日
    仕事始め
    5〜13日
    雪試験機試作(別項参照)
    10日
    当所新築敷地地質調査工事完了
    10日以降
    熱冷試験機製作
    11日
    所報創刊号完成
    空気駆動ポンプ連絡会(設計は昨年中に完了,各メーカー共製作は順調に進行中)
    12〜23日
    オートバイ安定試験機試作
    14〜15日
    雪試験機機能テストのため奥蓼科へ出張
    20日
    研究所新築原設計住宅公団に提出
    20日以降
    太陽温水器改造(寒中性能向上のため)
    24日
    防災化学研究会に出席

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