2026.11.04
2026年度 工業教育研究助成校 発表会を開催
2026年9月14日(月)13:00~16:00、ANAクラウンプラザホテル浜松 3階「松の間」にて、「2026年度 工業教育研究助成校 発表会」を開催しました。会場開催およびウェビナー配信を併用し、6件の研究成果が発表されました。
開催概要
| 日時 | 2026年9月14日(月)13:00~16:00 |
| 会場 | ANAクラウンプラザホテル浜松 3階 松の間 |
| 形式 | 会場開催およびウェビナー配信の併用 |
| 主催 | 公益財団法人 天野工業技術研究所 |
| 司会 | 天野工業技術研究所 所長 天野 仙太 |
参加者
公益財団法人 天野工業技術研究所 理事長 小山内 州一
公益財団法人 天野工業技術研究所 所長 天野 仙太
公益財団法人 天野工業技術研究所 理事・評議員
発表者(6校・7名)
神奈川県立横須賀工業高等学校 須藤 和基 教諭
静岡県立沼津工業高等学校 山田 幸宏 教諭、石神 文哉 実習助手
愛知県立豊田工科高等学校 成田 強 実習教員
学校法人松翠学園 岐阜第一高等学校 近藤 英寿 教諭
三重県立四日市工業高等学校 山川 昌文 教諭
愛知県立豊田工科高等学校 田渕 英樹 教諭(研究実施校:愛知県立愛知総合工科高等学校)
開会挨拶
開会にあたり、小山内理事長より挨拶がありました。当研究所は、日本における工業技術の発展の一助となることを目的として、大学・大学院・高等専門学校の教員への研究助成、博士後期課程学生への奨学金給付、高等専門学校および工業高校の学生・生徒への奨学金給付、工業教育研究助成、理科に興味を持つ子どもたちを育てる天野科学教室など、理工学分野の研究と教育を支える活動に取り組んでいることを紹介しました。
そのうえで、工業高校では日々の授業や実習に加え、クラブ活動、文化祭、競技会など多彩な教育活動が行われており、その一つ一つをより良いものにするために工夫を重ねる先生方の情熱に敬意を表するとともに、本発表会が、学校現場で見出された課題への向き合い方や改善の成果・知見を共有する大切な機会となり、活発な質疑と意見交換を通じてそれぞれの学校での新たな実践につながることへの期待が述べられました。あわせて、当研究所の活動を支えるアマノ株式会社への感謝の意が示されました。

研究発表
研究発表は1件につき20分(発表15分、質疑応答5分)で行われ、6件の研究成果が発表されました。各発表の概要は次のとおりです。
(1)廃材活用をとおした地域課題解決の可能性
神奈川県立横須賀工業高等学校 須藤 和基 教諭
創立85年を迎える同校の建設科による取り組みです。校章のY字をモチーフにしたテーブルとベンチを、実習で生じた端材や校内の廃材を活用して製作し、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」および目標15「陸の豊かさも守ろう」を意識したものづくりを実践しました。教員2名、生徒7名で企画・設計・製作・発表の年間計画を立て、廃材の解体にあたってはできるだけ大きな部材を確保する工夫、模型による強度と組立方法の確認、スケッチから図面化しての作業の徹底、整理・整頓・清掃・清潔に基づく安全管理などを行いました。
完成したテーブル・ベンチは校舎に囲まれた中庭に設置され、昼食や放課後の学習、生徒同士の交流の場として定着しました。文化祭では地域住民から好評を得たほか、同窓会から表彰を受けるなど、生徒の自己肯定感の向上にもつながりました。一方、地域課題の直接的な解決についてはまだ足掛かりの段階であるとし、今後は地域のニーズ調査や地元建設業界との技術交流を深め、横浜で開催予定の国際園芸博覧会に向けたベンチ製作など、地域社会に直接寄与するものづくりへ発展させていくとしました。
質疑応答では、廃材の利用割合(全体の約8割)、横須賀建設業協会と年間約200時間の授業を行うデュアルシステムとの関連、作業時の保護具の使用などについて質問と意見が交わされました。

(2)Society5.0に対応した学校間及び専門分野横断的な教材の開発 ~GPSデータを活用した制御~
静岡県立沼津工業高等学校 山田 幸宏 教諭、石神 文哉 実習助手
日常的に利用されているGPS技術を工業高校で学ぶ機会が少ないことに着目し、機械・電気・電子情報といった専門分野の垣根を越えて活用できるプラットフォーム型教材として、GPSデータを活用した自律走行制御プラットフォームを開発しました。沼津工業、吉原工業、御殿場、伊豆総合の4校の教員が中心となって研究組織をつくり、明星大学の研究室との技術交流も行いました。
当初使用した安価なGPSセンサーは測位誤差が約2mと大きく、大学で用いられている基準局との補正により誤差約10mmを実現するRTK方式との違いを学んだうえで、指定した地点(ウェイポイント)を順に通過する制御方式、緯度・経度・高度から東・北・上方向への座標変換、ROS(ロボットOS)による複数プログラムの連携などを取り入れ、2025年11月にプロトタイプを完成させました。車体は助成金で導入したアルミフレームにより拡張が容易で、透明なアクリルカバーによって内部の動作を生徒が観察できる構造とし、グラウンドのライン引きユニットも搭載しています。現在は4校に1台ずつ配布し、機械科では車体構造、電気科ではモーターや電池、電子・情報系ではプログラミングと制御など、各科の授業で活用するための指導書を作成中です。今後はROS2への移行や、スマート農業などへの応用展開も視野に入れています。
質疑応答では、教材の台数(各校1台)と生徒への展開の見通し、屋外での動作検証の方法(小型モニターを搭載して屋外でデバッグを行う)などについて質問があり、生徒への展開を早めるよう助言がありました。

山田 幸宏 教諭、石神 文哉 実習助手
(3)電子式燃料噴射エンジンの分解・組立教材の製作
愛知県立豊田工科高等学校 成田 強 実習教員
同校自動車科では、2年生のエンジン実習に1980年代製のキャブレター式エンジンを20年近く使用してきたが、老朽化による部品不足や、現在の電子制御式エンジンとの乖離が課題でした。市販の教材は高価で、実習に必要な台数を一度に揃えることが難しいため、実際の車両からエンジンを取り外して教材化することとしました。愛知県自動車整備振興会の尽力により、愛知工科大学自動車短期大学からトヨタ カローラおよびカローラランクス計8台の寄贈を受け、直列4気筒DOHC電子制御式燃料噴射エンジン(1NZ-FE型)を、課題研究および学科全体のプロジェクトとして生徒とともに教材化しました。
エンジンを単体で始動できる始動台を鋼材で試作したうえで、生徒が実用品を設計し、課題研究で量産して8台分を製作しました。車両の配線からバッテリー、燃料ポンプ、キースイッチ、エンジン制御コンピュータなど必要最小限の配線を再構築し、地元企業の協力により燃料ポンプ内蔵タンクを製作したほか、排気マフラーは水道管用の金属配管を利用して取付角度を調整できるよう改造するなど、多くの工夫が重ねられました。1年間で始動台8台と指導用装置1台を製作し、複数の班が同時に実習できる体制が整い、現状に合ったエンジン実習の質の向上が期待されます。今後は分解・組立マニュアルや映像教材の整備、回転部へのカバーの取り付け、指導用装置の増設などを進めます。
質疑応答では、2年生全員(約80名)が約7週間をかけてエンジンの分解・組立を行う実習の内容、助成終了後も継続できる部品・材料の確保状況、生徒が苦労の末に得る達成感などについて質問がありました。

(4)地域開放型STEAM教育ラボ(D1Lab)の開設によるデジタル人材の育成
学校法人松翠学園 岐阜第一高等学校 近藤 英寿 教諭
地域のDX化が進むなか、地域企業が求めるデジタル人材を育成する教育モデルの構築を目的として、旧木工教室を改修してD1Labを整備し、助成によりプログラミング教育用ロボット教材とロボットアームを導入しました。3Dプリンターやレーザー加工機も備え、机や機器は可動式として個人作業からグループワークまで柔軟に対応できるレイアウトとしたほか、ロボットアームの動作範囲の可視化や機器ごとの点検チェックリストの作成など、地域に開放するラボとして安全面にも配慮しました。
研究は、①グラフィカルプログラミングからPythonへ段階的に発展するカリキュラムの開発(実習45時間)、②生徒が講師役を務める校外活動を通じたSTEAMスキルの育成、③ロボットや3Dプリンターを使った応用的な実習、の3つの柱で構成しました。本巣市の小中学生13名を対象とした講座(ロボット書道、ライントレース、レーザー加工によるスタンプ製作)や、地域金融機関のイベント施設で開催した学園祭(約300名来場)では、生徒が企画・受付・説明・安全管理を担い、主体性や企画力、説明力、コミュニケーション能力の向上がみられました。課題として、アート領域の教材体系の整備、運営負担が特定の生徒に偏る傾向、地域企業との協働体制の強化を挙げ、今後はデザイン思考や創造的表現、AI活用を統合したアート領域中心のSTEAM教育モデルの構築を目指すとしました。
質疑応答では、施設整備に係る予算の構造、ロボット書道などの活動と創造力・発想力の育成との関連、校外活動の運営を担う生徒の偏りへの対応などについて意見が交わされました。

近藤 英寿 教諭
(5)再生可能エネルギーに関する実験装置の開発と解析評価
三重県立四日市工業高等学校 山川 昌文 教諭
同校ものづくり創造専攻科(高校卒業後に2年間学ぶ課程)における取り組みです。実験実習や総合実習を通じて創造力を養う教育の一環として、水力・太陽光・風力発電の実験装置を開発し、原理・理論を実験的に検証した。水力発電では、水槽内でポンプにより水を循環させる実験室用の装置を製作し、既製品の7枚羽根車を基準として、3D CADと3Dプリンターで製作した羽根車の枚数や形状と発電量との関係を調べました。
太陽光発電では、屋外での測定は天候の影響でばらつきが大きかったため、ハロゲンランプ7灯による実験室用光源を製作し、放射照度が安定するまでの時間を評価したうえで、パネル裏面温度と出力電圧の関係を測定して理論式を検証し、後期には裏面冷却による対策を検討しました。風力発電では、ブロワによる実験装置で複数種類の羽根の発電量と効率を比較し、渦流を利用した小型風車も製作しました。まとめとして、座学では理解しにくい原理・理論を発電量の測定によって検証できたこと、また、学生の取り組みを通じて、創造力を養うには基礎学力と教養が重要であることを再認識したと述べました。
質疑応答では、高校専攻科の位置づけ、創造力と教養の関係、パネル冷却に要するエネルギーと出力向上との収支、温度上昇により出力が低下する理由などについて質問と議論がありました。

(6)環境教育と工業系プロジェクト教育を掛け合わせた教科横断的カリキュラムによる、生徒の非認知能力と環境意識の育成について
愛知県立豊田工科高等学校 田渕 英樹 教諭(研究実施校:愛知県立愛知総合工科高等学校)
研究実施校である愛知総合工科高等学校理工科では、非認知能力の育成を学科全体で体系的に進めることを重視し、2・3年生の課題研究において生徒が一人一テーマで探究活動を行い、16名の教職員がチームとなって伴走しています。テンセグリティ構造を取り入れた自動車フレーム、ハイブリッドロケット、小型分析器の製作、産業技術総合研究所と連携した海洋生物へのナノプラスチックの影響調査、生物の動きを模したロボットなど、生徒の興味関心に基づく多様なテーマが学会等で発表されてきました。
本研究では、モデルロケットと人工衛星を組み合わせた高大連携型のPBLを対象に、非認知能力のうち「やり抜く力(グリット)」の変化をグリットスケールにより測定しました。活動の前半はティーチング、中期以降はコーチングを中心に生徒に伴走した結果、全体のスコアはほぼ横ばいであったが、内訳では「粘り強さ」が向上し、「情熱」がやや低下しました。技術的な課題やトラブルを主体的に乗り越えた成功体験が粘り強さの向上につながった一方、理想と現実のギャップや期日に追われるストレスが情熱の低下の要因であると考察し、失敗を経験させつつ教員が適切にフォローする指導のあり方を今後の課題としました。教科横断的な探究活動によって知識が結びついて定着し、非認知能力を育成する教育手法の土台を構築できたとまとめました。
質疑応答では、高大連携の具体的な進め方(高校側が主体的に提案し、双方に負担のない範囲で連携する)、認知能力と非認知能力の違い、ナノプラスチック分析のデータの見方などについて質問がありました。

閉会挨拶
閉会にあたり、天野所長より、長時間にわたる聴講と、貴重な研究成果を発表した先生方への謝意が述べられました。あわせて、工業教育研究助成は本年度より全国を対象としたため、神奈川・静岡・愛知・岐阜・三重の5県による発表会は今回が最後となり、次年度以降は全国の助成校が発表を行うことが説明され、事業の礎を築いた5県の先生方に改めて御礼が述べられました。次年度の助成については年明けに募集要項等を案内する予定であり、会場およびウェビナーの参加者に積極的な応募を呼びかけました。

情報交換会
表会終了後、同ホテル14階「花の間」において情報交換会を開催し、発表者と参加者の間で交流が行われました。


おわりに
本発表会では、廃材活用による地域連携、学校間連携によるGPS制御教材の開発、実車を活用したエンジン教材の製作、地域開放型のSTEAM教育ラボ、再生可能エネルギーの実験装置、非認知能力の育成と、いずれも工業高校の現場が直面する課題に正面から取り組んだ研究成果が発表され、各発表の後には会場から活発な質問と意見が寄せられた。当研究所は、5県での成果を礎として、次年度以降、全国の工業高校を対象とした工業教育研究助成を通じて、工業教育の充実と発展を引き続き支援していきます。